入曽まちづくりの会は「現在の駅舎(改札口)を活かした入曽駅周辺整備を求める署名」に寄せていただいた署名をもとに、狭山市に対して署名趣旨の実現を求めてまいりました。市の所管部署と面談を重ね、市長にも文書での質問を行い現行計画の問題点を指摘し、見直し案の提案を行ってきました。この度、市から最終的な回答を受けましたので、このページで公開し、会の見解についても表明します。

市の最終的な回答

狭山市からの回答

ご提出いただきました「現在の入曽駅舎 (改札口)を活かした入曽駅周辺整備を求める署 名」につきましては、本事業に対する様々なご意見があるのは承知しており、貴重なご意見として頂戴 してお ります。 

貴団体の署名につきましては、入曽駅を橋上化せずに現改札口を存続させることを趣旨として行われたものと理解をしておりますが、本計画は、現在の地権者の意向や土地利用の状況などを踏まえ、実施可能な範囲で、歩車の分離や危険な交差点への車両の集中を避け、安全対策に配慮した計画としております。そのため、今回の市が示す計画にご協力をいただ いている地権者の方々をはじめ、市議会や多くの市民の皆様の期待に応えるため、本計画による駅周辺の一体的な整備を早急に行うことが、周辺環境の改善や利便性の向上に最善な解決策であると考えており、本計画の早期の事業完了を目指し、取り組んでまいります。

本市といたしましては、引き続き事業に対するご理解をいただけるよう努めてまいりた い と考 えております。

会の見解

入曽駅周辺整備事業の意義や目的、緊急性について短い文章で述べられていますが、これは従来から議会答弁や広報などで周知されてきた内容に終始しており、入曽まちづくりの会がこれまで行ってきた問題的や指摘に向き合ったものではありません。特に、「現在の入曽駅舎 (改札口)を活かした入曽駅周辺整備を求める署名」の趣旨にある具体的な項目について、市の認識や見解が示されておらず、全くもって不十分な回答です。

一般的に、計画に問題点があればその都度修正や見直しを行うことが健全な事業推進の姿勢です。しかし本計画については、計画策定時のパブリックコメントも含め、大幅な計画変更を一切回避するためか重要な意見を聴き入れない市の一貫した姿勢が今回の回答にも表れています。

市民からの署名を受けた市側の姿勢として、その責務を果たしておらず、極めて残念な対応です。

署名趣旨各項目に関する市の見解

市から署名趣旨の各項目についての具体的な回答がありませんでしたが、これまでに会が市に対して行った面談や質問状から明らかになった市の見解について、以下に整理してお伝えします。

趣旨❶
入曽駅現改札口の存続、橋上駅舎化は中止

これまでのやり取りで明らかになった市の見解

【急ぐ理由】
平成25の事業断念以降、土地利用が進み整備用地確保が難しくなってきている。協力的な地権者には土地利用を控えてもらっており、まずは早期の事業完了を目指す。様々な制約がある中で、今回を最後の機会と捉えて事業に取り組んでいる。(公開質問状への回答より)

【橋上駅化の必要性】
基本計画作成にあたり、経済効果・駅利用者数変化の予想・地域の人口予測などの調査・評価は行っていない。(公開質問状への回答より)

【現改札口が残せない理由】
市民から既存の改札口存続の要望が多いことを踏まえ、これまで検討してきた。現行改札口を残した場合、狭隘な道路に車両が再び集中し歩行者などの危険回避が難しくなることが予想される。西武鉄道としても、車いす利用者への案内などバリアフリー対応や急な問い合わせへの駆けつけ対応などがあり、駅係員のオペレーション等を踏まえ、改札を橋上に集約して利便性や安全性を確保する方針になっている。(公開質問状への回答より)

会の見解

市は橋上駅舎化や東西自由通路を含めた一体的な整備事業を通しての人口増加を謳っていますが、具体的にどれほど人口増が期待できるのか、需要予測や動態調査など科学的裏付けがないため数値予想は行っていません。特に、橋上駅舎化と東西自由通路は事業費の半分以上を占めるため慎重な検討が必要ですが、その費用対効果が検証できないままに進められています。用地利用の機会喪失を避けるあまり駅周辺の安全性や利便性に欠陥がある計画が進められては本末転倒です。

東口前の人と車両の輻輳に関しては、現在の整備計画では、県道入曽停車場線の自動車交通量はほとんど変化がないことが市の交通調査により予測されており、新東口周辺の同県道では駅前広場を利用しない人と車との新たな混雑が発生する可能性が高いと考えられます。したがって、入曽駅周辺を俯瞰してみた場合、現東口改札を廃止することで危険性が下げられるという市の説明は、一部を切り取っただけの都合の良い予想にすぎません。さらに、「車いす利用者への案内などバリアフリー対応」といった交通弱者を人質に取ったような西武鉄道側の言い分をそのまま市民説明に流用する市の感覚の鈍さにはとても呆れ、本気で現改札口存続を検討したのか大いに疑問が残ります。

また、西武鉄道の所有施設に対して市が全額負担する“請願駅”となる合理的な説明は最後まで一切なされておらず、市の西武鉄道に対する交渉力不足は否めません。市としての駅舎の橋上化の必然性が説明できておらず、費用の全額負担も含めて、鉄道事業者の都合を市が全面的に受け入れているようにも受け取れます。


趣旨❷
駅周辺の安全対策・利便性向上策の促進
※駅周辺の道路・通学路の安全対策:具体的には
・自動車流入防止対策
・歩道設置
・南東側ロータリー新設
・駅南側の踏切拡幅
・十分な台数の駐輪場確保

これまでのやり取りで明らかになった市の見解

自動車流入防止策について

【交通規制を行わない理由】
交通規制(一方通行など)は近隣住民から要望なければ行うことはできない。(会との面談より)

【代わりの対策】
イオンへの車の出入りは交通誘導員の配置など協議中(議会答弁より)。一定期間は交通誘導員の必要性を検討(公開質問状への回答より)。イオンに出入口3箇所設置や将来にわたって周辺道路で滞留が生じないように提案を求めている。(公開質問状への回答)

【追加の安全対策】
本事業を皮切りに、必要に応じて周辺道路の安全対策についても検討していく。(公開質問状への回答)

会の見解

市が主導する計画に伴って交通安全の不安が発生しているにもかかわらず、自動車流入対策について市が解決しようとする主体性が見られません。

交通規制について、そもそも市民に正確な交通量予測を伝えておらず、近隣住民から要望が上がらない一因ではないかと思われます。民間企業であるイオンができる対策には限界があり、抜本的な渋滞・自動車流入防止対策にはなりえません。まちびらき後に危険性が増してから周辺道路の安全対策を検討するようでは遅すぎます。

このような市の様子見の姿勢は、当事者意識が完全に欠如している言わざるをえません。

歩道設置について

【歩道がない新東口付近について】
県道入曽停車場線に歩道の設置予定ない。(会との面談より)

【設置を急がない理由】
埼玉県の計画がないため県道入曽停車場線の拡幅は難しいが、車と人が新しい駅前広場へのアクセス道路へ分散することが想定され、安全性は高まると考えている。(公開質問状への回答より)

【主要交差点の歩道整備】
入曽交差点・入曽駅入口交差点の改良については埼玉県が一部工事を実施している。(公開質問状への回答より)

会の見解

歩車分離は、狭い道に車と人が入り乱れる入曽駅周辺で最重要課題の一つです。市の計画では歩道整備や道路拡幅は新しい駅前広場やアクセス道路・商業施設周辺に留まっており、県道入曽停車場線や商店街付近など以前から課題になっている場所は放置されています。

市の想定が甘く、入曽停車場線の新東口周辺では駅前広場を利用しない人と車との新たな混雑が懸念されることは先に述べた通りです。安全性が高まるとは言えず、入曽停車場線をはじめ駅周辺の歩道新設を急がない理由はありません。県や沿道の土地・建物所有者など関係者が多く存在することから調整には一定の時間がかかると見込まれ、できるだけ早い段階から検討を始めるべきです。

南東側ロータリー新設について

(これまでに、市からの具体的な言及はありませんでした。)

会の見解

駅南側方面、特に水野のうち線路西側地域からの送迎車両について市が想定しているルートが適切ではありません。現在の整備計画のままでは、この地域から来る送迎車両は特に朝夕の混雑時に新しい駅前広場を利用しない可能性が高いとみられます。これらの車両を駅周辺で安全に受け入れるためにすぐにできる対策として、駅南東側にある西武バス折り返し場の送迎車活用を私たちは提案しています。 しかし市は必要性を理解できないのか、または必要性を認識しつつも新たなことに取組むことが面倒に思っているのか分かりませんが、市は入曽駅周辺の自動車交通について誤ったルート想定を繰り返すだけで、利用者の生活実態や交通心理を把握できない極めて危うい事態にあります。

市議会議員からも、バス折り返し場など駅に隣接する西武鉄道の敷地を駅前広場に活用できないか、との意見が過去に出されています(2014年12月議会)。

駅南側の踏切拡張について

【踏切を考えなくていい理由】
自由通路を含めた総合的な整備を行うことで、危険な踏切を通行することなく、安全に入曽駅に向かうことが可能になる(公開質問状への回答より)

会の見解

そもそもこの踏切は南小の通学路であり、駅利用とは関係なく必要とする利用者がいます。 また、東西自由通路は中途半端な位置に計画されているため、整備完了後も依然として東西移動に踏切を利用する歩行者が多数を占めると考えられます。また、踏切を通過する自動車交通量も変化がないか、周辺の道路の混雑状況によっては増加することも考えられます。周辺整備事業を完了することで踏切の危険性が低減することはなく、同時並行で進めるべき課題ですが、市にはその認識がありません。

十分な台数の駐輪場確保について

【暫定的な扱い】
駅周辺整備事業の完了で需要が変化する可能性があり、新西口駐輪場は暫定的な設置(会との面談より)

【将来の検討内容】
市営の駐輪場は民業圧迫の恐れもあり、受益者負担の原則からも、必要性や使用料について検討(会との面談より)

会の見解

東口、西口で公営、民営関係なく駐輪場の容量に偏りがあります。東口は余裕はありますが、西口は足りていません。単に全体として足りているから十分という訳にはいきません。 暫定措置として突貫で整備された新⻄口駐輪場は事前の台数調査を経て十分な収容台数こそ確保されましたが、駅から遠くなったことによる利便性の著しい低下や途中の県道横断の必要性から安全性の低下が生じてしまいました。新西口駐輪場の整備場所は駅舎工事着工が近づくまでなかなか決まらず妥協の産物であり、利用者への周知も直前であったことを考えると、自転車利用者や駅周辺の自転車交通政策が軽んじられていることがよくわかります。

無料の西口駐輪場の利用者には小中高生も多く、「民業圧迫」や「受益者負担」といった安易な理由づけは子育て世帯の家計圧迫につながり、家庭によっては死活問題です。現在の自転車利用者にとって利便性は低下するか良くても向上することはありません。人によっては駅西側から新西口駐輪場の利用を取りやめ、東口駐輪場へ行くため踏切の横断が増え、市が本事業の目的とする踏切の横断の減少に逆行する可能性もあります。あるいは、駅へのアクセスを自転車から自動車利用に切り替えるケースも考えられ、カーボンニュートラルや健康増進など最近の社会の潮流に資する政策に逆行する可能性もあります。


趣旨❸
東西自由通路は住民の意見を踏まえた検討

これまでのやり取りで明らかになった市の見解

【東西自由通路・橋上化・駅前広場の一体整備の必要性】
歩行者が安全安心に駅の東西を移動できる。イオンや入曽地域交流センターへ新たな人の流れができ人口増可が見込まれ入曽地区全体の魅力が向上する。(公開質問状への回答より)

【東西分断の解消】
地域の東西分断を、まずは駅という拠点を中心に進める必要がある。(公開質問状への回答より)

【住民意見の反映】
駅周辺調査や住民同士での検討の場は設ける予定ない。せ電話・窓口・メールで受けた意見は事業の理解を得られるよう個別に説明を行っている。(公開質問状への回答より)

【自治会説明会に参加できなかった人の対応】
(住民の96.8%が自治会説明会に参加できていないことについて)パブリックコメントを実施しており、反映できるものは反映している。(公開質問状への回答より)

会の見解

東西自由通路の必要性や設置位置については住民の間で様々な意見がある中で、現計画における必然性が説明しきれていません。例えば入曽駅西側の地域からイオンや入曽地域交流センターへは踏切利用が最短となる地域が圧倒的多数です。東西自由通路が東西分断を解消するという考えは実態にそぐわない机上の空論に過ぎず、費用対効果の説明もできていません。

効果が不明な施設の整備は、住民の希望を幅広く集めてから検討するべきです。電話・窓口・メールでの対応やパブリックコメントは計画が固まってから行ったものであり、本来は計画前に住民意見を募るべき性質の整備内容です。