安全性の問題

入曽駅周辺整備事業により誘致される複合商業施設(イオンそよら)への来店需要で車の交通量が大きく増加します。例えば、周辺の2か所の交差点(入曽交差点、入曽駅入口交差点)の交通量は10%前後増加します(平日17時)。渋滞は周りの道路にも波及する懸念があります。渋滞によって駅前を抜け道として使う車が増える可能性があります。安全対策が不十分な状態での交通量の増加は、今でも多発している交通事故を増加させます。

一方で、旧武蔵野銀行(入曽支店)前の道路(県道225号入曽停車場線)の交通量は狭山市の予測ではわずか5.6%しか減少しません。しかも、この予測は利用実態を反映できていないため、ここまでの減少が実現するかも疑問です。この道路には歩道が無く、駅を利用する歩行者は車道を通行しなければならないため現在でも危険ですが、この状況はほとんど変わらない見通しです。この道路は周辺の小中学校の通学にも使われていて、ここの安全対策が全くなされない整備内容は的外れです。

県道225号入曽停車場線のエフズホール前。駅送迎車の待機が増える可能性がある
今も渋滞が常態化している茶つみ通り(県道8号川越入間線)のAコープ前

不便になる駅とまちへの影響

入曽駅の出入口が北に距離で約100m、道のりで約250m(東口)移動することから、既存改札口の存続要望が多数出されています。また、上下移動があったり東口駅前広場が駅から離れた位置にあるため、一見近くなると思われがちな駅北側の利用者にとっても駅が遠くなる場合があります。安易な駅出入口の移転は、今ある商店街に影響する恐れがあります。

車を降りてすぐに電車に乗れる現在の東口改札
現在の東口前の商店街。整備事業後は、駅前ではなくなる

西口駐輪場の代替地は窮余の策

現在の西口駐輪場(第11自転車駐車場、収容台数1,735台)は、整備事業の西口駅前広場の用地に転用されて使えなくなります。市は事業完成後に1,146台の需要があると見積もっていて、340台分は西武鉄道が整備することになっていますが、残りの806台分は移転先が決まらないまま市議会でも取り上げられていました[1]。代替の駐輪場の候補として西武鉄道や公共施設用地、民間にも打診した結果、入曽駅西口から約440m離れた第七区自治会館横の市有地に「入曽駅西口自転車駐車場」(無料)を新設することが決まりました。しかし、新しい駐輪場は遠方で交通量の多い県道の横断もあるため、整備後に入曽駅周辺の自転車利用者が行動し、東側のAコープ・金剛院裏の駐輪場(市営第5自転車駐車場)にも影響が及ぶ恐れがあります。

入曽駅周辺で最大の収容台数を誇る西口駐輪場(市営第11自転車駐車場)
入曽駅周辺の市営駐輪場の位置
西口駐輪場の代替施設の確保状況
東側のAコープ・金剛院裏の駐輪場(市営第5自転車駐車場)の様子。今まで西口に駐輪していた自転車利用者の需要が流れ込むなど、この駐輪場も影響を受ける可能性がある

厳しい財政状況の中、多額の出費

市が最初に自治会説明会で提示した事業費は30億円(橋上駅舎と東西自由通路)でした。しかし、物価や労務単価の上昇で1.5倍の45億円になって市議会に報告されました。その後、市は駅舎の設備や面積を削るなど基本設計を見直して、現在は47億円になっています[2]。今後の事業費の変動も予断を許しません。コロナ禍による市の財政負担や国際情勢の悪化による物価上昇で先行きが不透明な中、これから生じる事業費は慎重に考えなければなりません。

入曽駅の橋上駅舎化費用(橋上駅舎新設+既存駅舎撤去)は先に橋上駅舎化された狭山市駅の約13億円を大きく上回っています。1日の乗車人員は狭山市駅が約2万1千人に対して入曽駅は約9千人です[3]。物価や労務単価が変化したとはいえ、その規模や機能から考えて、今すぐに橋上駅舎化することは必要でしょうか?さらに、狭山市駅は西武鉄道が3分の1負担して市の負担は約9億円でしたが、入曽駅は市の全額負担です。入曽駅の橋上駅舎化は、市民の大きな負担になります。

入曽駅と狭山市駅の橋上駅舎化事業費の比較。両駅ともに自由通路の事業費は含まない。乗車人員は平成30年度(2018年度)の1日平均の値

住民合意の欠如

市が入曽地区住民に直接説明をしたのは自治会ごとに開催された説明会の一度だけでした。市への公文書開示請求によると、説明会の参加者は626人で、入曽地区の人口のわずか1~2%です。そのうち、508人(81%)が賛成したと報告されていますが、入曽地区住民の34,500人(98%)の要望・意見・賛否は聞いていません。事業は多岐にわたり、計画全部を単純に「賛成」・「反対」で採決できる問題ではありません。中でも入曽地区自治会のうち第七区自治会は、参加者から異論が出され、賛否の採決を行わずに説明会を終えてしまいました。それ以降の自治会説明会では「条件付き賛成」の選択肢を加えるなど、説明会運営のずさんさは否めません。さらに市は、「説明会の結果は事業に着手するかどうか判断するためのものではない」と後に言っています。

市は市民を代表する市議会に説明したと主張していますが、市議会の建設環境委員会では、委員会の全議員が「市民への説明不足」を指摘しています。

誰も請願しない“請願駅”

そもそも、西武鉄道は駅舎の改修は必要ないという見解でした。市は、整備事業を計画するうえで「請願駅の考え」(市への公開質問状による)という奇妙な言い回しを使って、現駅舎の撤去と橋上駅舎の新設費用を全額負担し、西武鉄道と覚書や協定を結んでいます。市は、この橋上駅舎化を誰が請願したか具体的には答えず、「地元市から要請し」たと公開質問状などで答えています。公共交通機関とはいえ、現行駅舎撤去も含めて大手私鉄の駅舎改修費用を自治体が全額負担することは極めて異例で、誰のための橋上駅舎化なのかわからなくなっています。

西武鉄道は改修の必要はないという見解だった

出典

  1. 令和3年第2回定例会一般質問 https://www.city.sayama.saitama.jp/gikai/teireikai/kakonoteireirinji/shitumonR3_2.html
  2. 令和3年第1回定例会一般質問 https://www.city.sayama.saitama.jp/gikai/teireikai/kakonoteireirinji/shitumonR3_1.html
  3. 令和元年埼玉県統計年鑑 https://www.pref.saitama.lg.jp/a0206/a310/a2019.html

最新の情報が必要な方は、狭山市のwebサイト「入曽駅周辺整備事業 」もあわせてご覧ください。