商業施設誘致による交通の増加

市が誘致した複合商業施設(イオンそよら)へのアクセス手段は自動車が大きな割合を占めています。狭山市の交通量予測(市公文書開示請求より)ではピーク時1時間当たりに出入りする車が444台発生すると計算されています。例えば平日午後5時台は入曽駅周辺で一番交通量が多い時間帯とされていますが、この時間帯では車の通過台数が入曽交差点(金剛院そば)で12.8%、入曽駅入口交差点(田辺新聞店そば)で9.2%それぞれ増加します。現状でさえも渋滞が多発している入曽駅周辺の道路でさらなる渋滞悪化が懸念されます。市はイオンに対して交通誘導員の配置などの対策[1]を求めていますが、この対策だけでは不十分だと考えられます。

また、交通量の増加が交通事故の危険性を高めることは、統計的に明らかです[2]。入曽駅周辺では、入曽駅入口交差点(田辺新聞店そば)やAコープ(JAファーマーズ入間)前の交差点で特に事故が多発しています[3]。入曽駅入口交差点(田辺新聞店そば)は歩道整備や右折レーンの追加が行われる計画ですが、現在は拡幅予定地の一部で調整を進めている段階[4]で、整備完了はイオンの開業より遅れる可能性があります。Aコープ前の交差点は交通安全対策の計画すらありません。その他の周辺道路でも事故が発生していて、部分的な改良や整備で済ませるのではなく、全体的な視点で入曽駅周辺の安全対策を講じる必要があります。

入曽駅周辺道路の交通量変化予測(平日午後5時台)
令和元年(2019年)・令和2年(2020年)の入曽駅周辺の交通事故の発生状況と道路整備の問題点

車道を歩かざるを得ない歩行者

現在、入曽駅周辺から東口方向に来る歩行者は、

  1. 南方面から交番前の道路(市道B350号)を通行してくる人
  2. 北方面のAコープから旧武蔵野銀行(入曽支店)前の道路(県道225号入曽停車場線)を通行してくる人
  3. 北方面の藤月堂から曲がりくねった路地(市道B299号)と旧武蔵野銀行前の道路(県道225号入曽停車場線)を通行してくる人
  4. 東方面から現在のはんしん(飯能信用金庫入曽支店)前の道路(市道B296号)を通行してくる人

の4方面に分けられます。市の歩行者交通量調査(市公文書開示請求より)では、現在の東口方向に来る歩行者のうちで❶南方面からは39%、❷北(Aコープ)方面からは23%、❸北(藤月堂)方面からは14%、❹東方面からは24%を占めています(平日日中の12時間平均)。つまり、東口では、❶南方面からの歩行者が最多であることがわかります。

❶南方面からの歩行者は、大久保タクシー前の道路(市道B350号)にすでに歩道が設置されているので、現在これらの人は駅に安全にアクセスすることができています

一方で他の方面からの歩行者(❷~❹)は歩道がまったく無いか、有っても必ず経路のどこかで車道を歩かないといけないため、雨の日や交通量が多い時は車との接触の可能性がある危険な状態が続いています。特に、旧武蔵野銀行前の道路(県道225号入曽停車場線)は、道幅が狭いうえに店舗が多く車の往来も人出も多いため、37%を占める北方面からの歩行者(❷と❸)は注意が必要です

東口利用者の歩道利用状況の変化

整備事業が完了すると、東口の位置が北に大きく移動します。茶農協跡地周辺に東口駅前広場が整備され、東口アクセス道路(区画道路1号)の新設や現在のはんしん前の道路(市道B296号)の一部にも歩道が整備される計画です。これに伴って、歩行者の経路も変わります。しかし、この整備事業で歩行者の危険が解消されるのは❸北方面(藤月堂)と❹東方面に対してだけです。特に危険な旧武蔵野銀行前の道路(県道225号入曽停車場線)は拡幅や歩道整備の計画はなく、❷北方面(Aコープ)は現在と変わらずこの道路を通行することになります。逆に、今まで安全に歩道を通行できた❶南方面からの歩行者は、整備事業の結果、旧武蔵野銀行前の道路(県道225号入曽停車場線)を通行しなければいけなくなります。東口で車道を歩かなければアクセスできない歩行者は、現在は❷から❹の61%ですが、整備完了後は❶と❷の62%とかえって増加します

ところで、東口駅前広場が整備されるため、旧武蔵野銀行前の道路(県道225号入曽停車場線)の車が減って危険性は低下するのではないかと期待したくなりますが、実はほとんど減らない見通しです。現在、この道路を通過する車の大半が駅の送迎とは無関係なので、整備事業後の交通量は5.6%しか減少しないと予測されています(市の交通量予測:市公文書開示請求より)。それどころか、予測では反映されていない交通実態もあり、車が増える恐れもあります(詳しくは次章)。

歩道がない、旧武蔵野銀行前の道路(県道225号入曽停車場線)

考慮されていない自動車の流れ

市は、整備事業の計画立案時に自動車の交通量予測(市公文書開示請求より)をしていますが、この予測では実態を十分に把握せず、考慮していない車の流れがあります。

1つ目は、駅南西部から駅利用者の送迎やイオンを利用する車の流れです。駅利用者の送迎については、市の想定ではすべて東口または西口駅前広場のロータリーに入ることになっています。しかし、駅利用者は旧武蔵野銀行前の道路(県道225号入曽停車場線)から藤月堂前につながる曲がりくねった路地(市道B299号)を通って駅前広場に徒歩で出入りすることもできます(市への問い合わせより)。なかでも、駅南西部の住民にとっては、東口や西口駅前広場のロータリーよりも県道225号入曽停車場線のエフズホール前で送迎する方が所要時間が短くなり、特に通勤・通学で急いでいる朝はこのルートがより使わると考えられます。

入曽南西側から駅へ送迎する車のルート

2つ目は、複合商業施設(イオンそよら)周辺の交通量の増加に伴う、渋滞回避の流れです。例えば茶つみ通り(県道8号川越入間線)の藤月堂前は、入間方面から来て東口アクセス道路に右折する車で今より渋滞が悪化する可能性が高いです。それにもかかわらず、信号機や右折レーンは整備されません。茶つみ通りを入間方面から来てつつじ通り(県道50号所沢狭山線)を所沢方面に向かう車は、この渋滞を回避するために、武蔵野銀行前の道路(県道225号入曽停車場線や市道B350号)を抜け道に使う可能性が十分にあります。県道225号入曽停車場線には歩道がないため、歩行者の危険性が高まります。

入曽西側から所沢方面へ行く場合の右折渋滞を回避するための主なルート

これらの車の流れは市の交通量予測にはないため、旧武蔵野銀行前の道路(県道225号入曽停車場線)のみならず、入曽駅東口周辺の道路の交通量は期待通り減少しない可能性が十分あります

県道225号入曽停車場線のエフズホール前。駅送迎車の待機が増える可能性がある

通学時の危険

入曽駅周辺は入間野中や入間野小、南小の学区で、周辺の道路は児童生徒が通学に使われています。朝の登校時間や夕方の部活帰りは、駅送迎車の多い時間とも重なります。子どもたちの安全を確保するためにも、この危険な道路の安全対策は最優先で行うべきです。

周辺の小中学校への経路

住民参加の交通安全対策せず

埼玉県交通安全対策会議は「交通安全計画」[5]の中で、住民が計画段階から交通安全対策に積極的に参加できる仕組みづくりを求めています。しかし、入曽駅周辺整備計画において市が計画段階で交通安全対策に住民を参加させた事実はありません。これは、「考慮されていない自動車の流れ」の章で指摘した、実態を把握していない予測にもつながっていると考えられます。

第11次埼玉県交通安全計画にある住民参加の一文

出典

  1. 入間小学校跡地利活用事業者募集要項 https://www.city.sayama.saitama.jp/shisei/shisaku/tosikeikaku/irisoeki-syuhen/irumasyoukouboR30628.html
  2. 国土技術政策総合研究所資料第48号「交通事故統合データベースを用いたマクロ交通事故分析」http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0048.htm
  3. 朝日新聞 全国68万件の交通事故マップ-みえない交差点-プレミアムA https://www.asahi.com/special/jiko-kosaten/
  4. 狭山市議会令和4年建設環境委員会(第1回)
  5. 第11次埼玉県交通安全計画https://www.pref.saitama.lg.jp/a0311/kaigikeikaku/11jikoutuuanzennkeikaku.html

最新の情報が必要な方は、狭山市のwebサイト「入曽駅周辺整備事業 」もあわせてご覧ください。